六、四国遍路の旅(4)車中
あの山奥に鉄道を敷設した南海電鉄に改めて敬服した。
山奥の奥の奥の・・・そのまた奥の高野山。
電車がギシギシきしみながら、曲がりくねった道を登って逝く。
いくつものトンネル、トンネルを抜けると、数十メートルの谷に橋が架かっていて、その橋の終点にはまたトンネルがある。
そこも抜けると、崖に沿って走り、崖の途中に駅がある。
民家は・・・何と、百メートル近く崖下の谷間に集落がある。
最終駅“極楽橋”には民家は見えない。
なぜ、ここまでしか行かないのか。
勾配30度以上あろうかというケーブルカーが待っている。
スキーでは滑れそうにない。
本当にこんな山中に寺があるのか。
驚き通しである。
途中から乗ってきたご夫人が、網棚の上に箱をあげた。
遠くから見たところ、『ミスタードーナツ』かなにかの箱だ。
しばらく気にも留めなかったが、かなり奥の小さな駅で買い物の荷物とその箱を持って降りた。
なるほど、あれは子供たちへの街の香りのお土産だったのか。
田舎の子供には、ケンタッキーとかドーナツとか、ああいった類いのものは特別の思い入れがある。
僕も小さい頃、札幌へ行ったら一度は必ずケンタッキーに連れて行ってもらい、街の味を味わって満足したものだ。
きっとみんな大喜びだ。
子供たちの顔が目に浮かぶ。
高野山は金剛峰寺の『奥の院』に弘法大師は鎮座まします。
四国札所八十八カ所は、大師の足跡を印したところだ。
順番に寺を回り、お経を上げ、お札をおさめて、帳面に納経していただく。
僕も出発点を和歌山の高野山とする。
『同行二人』の旅といわれるが、それは自分とお大師様と、二人で歩く意である。
まずお大師様にお会いするため、奥の院参拝から始める。
そこから一緒に歩いてくださるのである。