六、四国遍路の旅(13)橋の下
鶴林寺についたのは夕方だった。
午前中はふもとの遍路宿で障子を張らせていただいた。
金子屋さんといって、明るい笑い声が外まで響いてくるようなお宅だった。
そこを出てわずか4キロの上り坂だが、30キロの荷物を背負っての道のりは厳しく、2時間を要した。
重い荷物もいいところはある。
荷を下ろすと途端にスーパーマンのように空を飛ぶ心地になる。
竹ぼうきをお借りしてタタターッと階段を三段跳びで駆け上がっても汗もでない。
ササッと掃いて山を降りた。
次の太龍寺までは谷をひとつ越えて行く。
そろそろ寝るところを探さねば。
谷底につくと村はあるが店がない。
大きな橋に出た。
日も暮れてしまった。
今夜は橋の下で寝る。
雨も大丈夫だろう。
夕食はジュースとカンパンと梅干し。
口の中でボソボソになり,あまり食べられない。
空腹のままだが、もう寝よう。
昔、故郷の稚内の空で、よく人工衛星を見つけた。
今夜は月がない。
たくさんの星の間を緑と赤の光を点滅させながら飛行機が飛んで行く。
流れ星がいくつか見えた。
空よりも周りを囲む山が黒く、川の音と虫の声とが絶えることなく聞こえてくる。
夜の空気はもう秋になっている。
昼はまだまだ暑いのに。
気がつくと山の上に満月を過ぎた月がある。
月影とはこんなに明るいものなのか。
そのうち霧がかかって来たのか星も少しづつ減ってゆき月もどこかへ行ってしまい、周囲の音も遠のいていった。