六、四国遍路の旅(3)名古屋
名古屋駅について、残りのお金できしめんを食べた。
おまわりさん、住宅街はどちらでしょうか?
名古屋の駅を出たが、どこへ行けばいいのかわからない。
駅前は、地方都市とは思えないような太い道と、ビルや商店しかない。
ここで仕事をしないと、先へ進めない。
名古屋というと、僕には独特の先入観がある。
自分の数少ない体験で判断するのはおこがましいが、他所者を受けつけないというか、地元意識が強いような気がする。正直言って、名古屋で仕事がいただけるかどうか非常に不安だ。この偏見を払拭する出会いがあるといいが。
こんにちは!突然ですみません。実は・・・
「うち、もうすぐ壊すんです」「他あたってください」「今、忙しいの」「お盆だからねえ」
もうこれ以上やっても駄目だ。
気持ちが暗くなってしまう。
旅館みたいな建物があったので、最後に飛び込んだ。
奥様は、今から出かけられるところだった。
仕事はいただけそうもないが、障子の破れているのがあるそうなので、これも何かの縁だと思い、「障子紙だけ置いて行きます」と申し出た。
これから出かけますけど、すぐ帰りますから、直しておいてくださいますかしら?
この土壇場で仕事をさせていただけるとは!
窮すれば通ず。神様!
最初は補修だけの予定が、どんどん増えて、作業は夜9時までかかった。
「お昼どうぞ」「今晩寝るところは?」「泊まって行きなさい、晩ご飯用意しますから」「お風呂入って、朝はゆっくりおやすみなさい。お昼にお弁当作ってあげますから」
情けのこもった言葉が次々とかかる。
砂漠にオアシス、地獄に仏。
ご主人はお忙しそうで、帰るとまたすぐに出かけられた。
お話もできずに、ご挨拶だけさせていただいた。
夜に奥様が、ご主人からとパーカーのペンをくださった。
箱の中に名刺があり、「名古屋市議会議員」と書かれていた。
朝は少し早起きして、庭を掃いた。
ご主人の出かけられる前に、ご挨拶させていただいた。
「うちは子供がいないから」と、そればかりおっしゃる。
お礼の言いようもない。
お昼のお弁当をこしらえていただいて、バスで大阪ヘ行き、なんばから南海電鉄で高野山に登った。